はじめに
特別養護老人ホーム(特養)では、転倒は入居者さんの生活に大きな影響を与える事故の一つです。
転倒予防というと、筋力トレーニングやバランス練習を思い浮かべる方が多いかもしれません。
もちろん、身体機能を維持・向上させることは大切です。しかし、私は理学療法士として、環境を整えることも転倒リスクを減らすための重要な取り組みの一つだと考えています。
環境調整は、福祉用具を設置したり家具を動かしたりすることだけではありません。
利用者さんの身体機能、認知機能、生活習慣、ご家族の思いなどを踏まえ、「その人が安全に生活しやすい環境」を考えることが大切です。
今回は、私が特養で実践している環境調整についてご紹介します。
環境調整も転倒リスクを減らすための大切な支援
高齢になると、
- 筋力の低下
- バランス能力の低下
- 認知機能の変化
- 疲れやすさ
- 疾患や薬の影響
など、さまざまな要因が重なり転倒しやすくなります。
そのため、転倒リスクを減らすには運動だけでなく、生活する環境にも目を向ける必要があります。
私は「危ないから動かない」のではなく、
「安全に動き続けられる環境を整えること」
を大切にしています。
私が特養で意識している環境調整
日頃から、次のような点を確認しています。
- 伝い歩きしやすい動線になっているか
- 呼び鈴は無理なく手が届く位置にあるか
- ベッドや椅子の配置は移動しやすいか
- 歩行補助具を安全に使用できる環境になっているか
一つひとつは小さな工夫ですが、日々の生活の中では大きな安心につながります。
環境調整は、「動きを制限するため」ではなく、「できることを続けるため」の支援だと考えています。
環境調整に正解はありません
同じ疾患でも、必要な環境は一人ひとり異なります。
身体機能だけでなく、
- 認知機能
- 性格
- 生活習慣
- 本人の価値観
によっても、使いやすい環境は変わります。
そのため、私は「この方法が全員に合う」という考え方ではなく、その方の生活に合わせて環境を考えるようにしています。
現場で学んだ環境調整の難しさ
以前、ご家族から「転倒予防のために居室内へ福祉用具を設置できないか」と相談を受けたことがありました。
ご本人には認知機能の低下があり、普段の生活の様子から、福祉用具を継続して活用することは難しい可能性があると考えていました。
また、導入には自己負担が発生するため、期待できる効果だけでなく、認知機能の状況から十分な効果が得られない可能性についても、ご家族へ事前に説明しました。
そのうえで、介護職員や看護師など多職種で話し合い、ご本人・ご家族の思いを尊重して導入を決定しました。
実際には、認知機能の影響もあり、福祉用具を継続して活用することは難しく、これまでどおり歩いて移動される場面が多く見られました。
この経験から私が学んだのは、
「環境を整えること」と「その方が実際に使い続けられること」は別である
ということです。
環境調整では、身体機能だけではなく、認知機能や生活習慣、ご本人の行動パターンまで考えることが欠かせません。
そして、導入したら終わりではなく、その後も評価と見直しを繰り返していくことが重要だと感じています。
多職種で考えることがより良い環境につながる
環境調整は理学療法士だけで完結するものではありません。
介護職員、看護師、ケアマネジャー、ご家族など、それぞれの立場から見える情報があります。
私は、リハビリで確認した身体機能だけでなく、介護職員から日常生活の様子を教えていただきながら、一緒に環境を考えることを大切にしています。
また、リビングでリハビリを行うことで、介護職員にも利用者さんの動きを実際に見てもらい、「どこまで自分でできるのか」「どんな場面で介助が必要なのか」を共有するよう心がけています。
こうした日々の情報共有も、利用者さんに合った環境づくりにつながると考えています。
理学療法士として大切にしていること
私は、環境調整とは「転ばないようにすること」だけではないと思っています。
本当に大切なのは、
「その人が安心して、その人らしい生活を続けられる環境をつくること」
です。
環境を整えること、必要なリハビリを行うこと、多職種で情報を共有すること。
これらを組み合わせながら、一人ひとりに合った支援を考えることが、転倒リスクを減らすことにつながると考えています。
まとめ
転倒リスクを減らすためには、運動だけでなく環境調整も重要です。
しかし、環境調整に決まった正解はありません。
利用者さんの身体機能や認知機能、生活習慣、ご家族の思いを踏まえ、多職種で話し合いながら、その方に合った方法を考えることが大切です。
今回ご紹介した経験を通して、私は「環境を整えること」だけではなく、「その方が実際に生活の中で使い続けられる環境をつくること」の重要性を学びました。
これからも、一人ひとりの生活に寄り添いながら、安全に動き続けられる環境づくりを大切にしていきたいと思います。
【この記事の執筆者】
usagi.inco(理学療法士・福祉住環境コーディネーター2級)
理学療法士として18年以上、高齢者リハビリテーションに従事。現在は特別養護老人ホームで勤務し、介護職員への介助技術指導、転倒予防、褥瘡予防、リスクマネジメント活動などに携わっています。

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