認知症の方が歩き回る理由とは?介護現場で実践できる対応方法を理学療法士が解説

リハビリの基礎知識

はじめに

「何度も立ち上がって歩き回る」
「目を離したすきにどこかへ行ってしまう」
「座っていてほしいのに落ち着かない」

認知症の方を介護していると、このような場面に悩むことがあります。

一般的には「徘徊(はいかい)」と呼ばれることもありますが、認知症の方には本人なりの理由や目的があることが少なくありません。

私は理学療法士として15年以上、高齢者施設や介護現場で多くの認知症の方と関わってきました。その経験から感じるのは、「歩き回る行動を止める」よりも「なぜ歩いているのかを理解する」ことが重要だということです。

この記事では、認知症の方が歩き回る主な理由と、介護者ができる対応方法について解説します。


認知症の方が歩き回るのはなぜ?

歩き回る行動にはさまざまな原因があります。

一つの理由だけではなく、複数の要因が重なっていることもあります。


理由① 家に帰ろうとしている

認知症の方によく見られるのが「家に帰りたい」という訴えです。

実際には自宅にいる場合でも、

  • 子どもの頃の家
  • 昔住んでいた家
  • 家族が待っている場所

を思い浮かべていることがあります。

本人にとっては「今いる場所が自分の居場所ではない」と感じているため、帰宅しようとして歩き回ります。

対応のポイント

「ここが家ですよ」と否定するよりも、

  • 「お家が気になりますか?」
  • 「少しお話を聞かせてください」

など気持ちに寄り添う対応が有効です。


理由② 何かを探している

認知症では記憶障害の影響により、物を置いた場所を忘れることがあります。

  • 財布
  • バッグ
  • 家族

などを探して歩き回るケースがあります。

介護施設では「主人を探している」「仕事に行かなければ」と話される方も少なくありません。

対応のポイント

探し物の内容を確認し、

  • 一緒に探す
  • 写真を見せる
  • 気分転換を行う

など安心につながる対応を行います。


理由③ 不安や孤独を感じている

認知症の方は環境の変化に敏感です。

  • 初めての場所
  • 知らない人が多い環境
  • 家族が帰った後

などで不安が強くなることがあります。

不安を紛らわせるために歩き回る場合があります。

対応のポイント

  • 穏やかに声をかける
  • 一緒に座って話をする
  • なじみの物を近くに置く

安心感を与えることが重要です。


理由④ 身体を動かしたい

認知症だからといって身体活動が必要なくなるわけではありません。

特に元気な高齢者の場合、

  • 運動不足
  • 長時間座位
  • 活動量不足

によって自然と歩きたくなることがあります。

対応のポイント

安全が確保できる環境で歩行してもらいましょう。

施設では廊下歩行や体操への参加が有効です。

在宅では散歩の時間を設けることもおすすめです。


理由⑤ トイレに行きたい

認知症が進行すると、自分の要求を言葉で伝えることが難しくなります。

そのため、

  • 尿意
  • 便意
  • 喉の渇き
  • 空腹

などの不快感を歩き回る行動として表現することがあります。

対応のポイント

急に歩き始めた場合は、

  • トイレは大丈夫か
  • 水分は足りているか
  • 体調に変化はないか

を確認しましょう。


歩き回る行動を無理に止めてはいけない理由

介護者としては転倒や事故が心配になるものです。

しかし、

  • 「座っていてください」
  • 「歩かないでください」

と繰り返し制止すると、かえって不安や興奮を強めることがあります。

大切なのは行動だけを見るのではなく、その背景を考えることです。

「なぜ歩いているのだろう?」

という視点を持つことで対応方法が見えてきます。


転倒予防のためにできること

認知症の方が歩き回る場合、安全対策も重要です。

環境整備

  • 床に物を置かない
  • 電気コードを整理する
  • 滑りやすいマットを除去する

履物の見直し

  • 滑りにくい靴
  • かかとのある靴
  • サイズの合った靴

を選びましょう。

見守り体制の確保

家族だけで抱え込まず、

  • デイサービス
  • 訪問介護
  • 地域包括支援センター

などの支援も活用しましょう。


まとめ

認知症の方が歩き回る主な理由は以下の5つです。

  1. 家に帰ろうとしている
  2. 何かを探している
  3. 不安や孤独を感じている
  4. 身体を動かしたい
  5. トイレなどの欲求がある

歩き回る行動には必ず何らかの理由があります。

行動を無理に止めるのではなく、「何を伝えようとしているのか」を考えることが大切です。

介護者の視点を少し変えるだけで、本人の安心につながり、介護の負担軽減にもつながります。


【この記事の執筆者】

usagi.inco(理学療法士・福祉住環境コーディネーター2級)

理学療法士として18年以上、高齢者リハビリテーションに従事。現在は特別養護老人ホームで勤務し、介護職員への介助技術指導、転倒予防、褥瘡予防、リスクマネジメント活動などに携わっています。

▶ 運営者プロフィールはこちら

コメント