「最近、高齢者の歩き方がふらつくようになった」
「以前より歩行が不安定になっている気がする」
介護の現場では、このような変化に気づくことがあります。
高齢者の歩行中のふらつきは、転倒につながる可能性があるため注意が必要です。
しかし、ふらつきがあるからといって、すべての原因が「足の筋力低下」とは限りません。
筋力だけでなく、バランス能力、歩行パターンの変化、痛みや骨折などの既往歴、病気や中枢神経系の影響、認知機能や理解力など、さまざまな要因が関係していることがあります。
私は理学療法士として高齢者のリハビリに関わる中で、歩行時のふらつきを確認するときには、歩き方だけを見るのではなく、その人の身体の状態や既往歴、病気、認知機能、普段の生活の様子などを含めて考えることを大切にしています。
この記事では、私が高齢者の歩行を確認するときに意識しているポイントを、6つに分けて紹介します。

高齢者が歩くときにふらつく原因は一つとは限らない
高齢者の歩行時のふらつきを見たとき、「筋力が落ちたからふらついている」と考えることがあります。
もちろん、筋力低下はふらつきの原因の一つです。
しかし、実際には、
- 筋力や身体を支える力の低下
- バランス能力の低下
- 歩行パターンの変化
- 痛みや関節の動かしにくさ
- 過去のけがや骨折、手術による身体の変化
- 中枢神経系の病気や障害
- 認知機能や理解力の変化
など、複数の要因が関係していることがあります。
そのため、ふらつきを見つけたときには、単純に「足の筋力が弱い」と判断するのではなく、
「なぜふらついているのか?」
を考えることが大切です。
ここからは、私が高齢者の歩行を確認するときに意識している6つのポイントを紹介します。
① 筋力や身体を支える力が低下していないか
歩行には、足だけでなく全身の筋力が必要です。
特に高齢者の場合、下肢や体幹の筋力が低下すると、立ち上がりや歩行が不安定になることがあります。
たとえば、
- 椅子から立ち上がるときに時間がかかる
- 立ち上がるときに手すりを強く使う
- 立ち上がった直後にふらつく
- 歩き始めに身体が安定しない
- 長い距離を歩くと姿勢が崩れてくる
といった変化がないか確認します。
ただし、ここで注意したいのは、筋力があることと、バランスを保てることは同じではないということです。
筋力がある程度保たれていても、身体が揺れたときに姿勢を修正できなければ、歩行中のふらつきにつながることがあります。
そのため、筋力だけで判断するのではなく、バランス能力と合わせて確認することが重要です。
② バランス能力や、ふらついたときに姿勢を立て直す力があるか
歩行時のふらつきを確認するとき、私はいきなり歩いてもらうのではなく、まず歩行前の立位が安定しているかを確認します。
たとえば、
- 手放しで立っていられるか
- 歩行補助具を持って立っていられるか
- 立位で身体が大きく揺れていないか
- 軽く支えたときに姿勢を崩さないか
- ふらついたときに自分で姿勢を立て直せるか
といった点を確認します。
ここで大切なのは、筋力とは別に、身体のバランスを保つ力を見ることです。
一時的に身体がふらついても、自分でバランスを取り直して立位を保てる方もいます。
反対に、少し身体が揺れただけで姿勢を立て直せず、そのまま大きくバランスを崩してしまう方もいます。
そのため、私は「ふらついたかどうか」だけで判断するのではなく、
「ふらついた後に自分で立て直せるか」
という点も重要だと考えています。
歩行では、常に身体が完全に安定しているわけではありません。
一歩を踏み出すたびに身体の重心は移動するため、その変化に合わせて姿勢を調整する必要があります。
そのため、歩行前の立位で、
「身体を支える力があるか」だけでなく、「身体が揺れたときにバランスを取り直せるか」
を確認することは、歩行時のふらつきを考えるうえで大切なポイントです。
なお、実際にふらつきを確認するときは転倒の危険があるため、本人の状態に合わせて安全を確保し、必要な介助者がいる状況で行うことが重要です。
③ 歩き方や歩行パターンに変化がないか
歩行時のふらつきを確認するときには、「今の歩き方」だけでなく、以前と比べて歩き方が変わっていないかという視点も重要です。
たとえば、
- 歩幅が以前より狭くなった
- 歩く速度が遅くなった
- 足が上がりにくくなった
- すり足になっている
- 歩き始めに時間がかかる
- 方向転換が不安定になった
- 歩行中に身体が左右に大きく揺れる
などの変化です。
高齢者の場合、本人は歩き方の変化に気づいていないこともあります。
また、リハビリの時間には問題なく歩けていても、日常生活の中ではふらついていることもあります。
そのため、理学療法士がリハビリの時間だけ歩行を確認するのではなく、日頃から関わっている介護職員などから情報を得ることも大切です。
「最近、歩き方が変わった」
「以前よりふらつくようになった」
という情報があれば、それが転倒リスクの変化を知るきっかけになることがあります。
高齢者の転倒予防では、歩行時のふらつきだけでなく、「いつもと違う」という小さな変化に気づくことも重要です。
特養での転倒予防について、私が実際に利用者さんの変化から転倒リスクを確認するときに意識しているポイントについては、こちらの記事で詳しく紹介しています。
歩行の変化は、一度の観察だけでは分からないこともあります。
普段の歩き方を知っているからこそ、「いつもと違う」という変化に気づけることがあります。
④ 痛みや病気、過去のけが・骨折、手術による身体への影響がないか
ふらつきの原因を考えるときには、現在の病気や痛みだけでなく、過去のけがや骨折、手術歴も確認します。
高齢者の中には、変形性膝関節症や大腿骨頸部骨折など、足のけがや骨折を経験している方もいます。
こうした既往歴がある場合、痛みや関節の動かしにくさだけでなく、立った姿勢を安定させたり、歩行中に身体を支えたりする力に影響していることがあります。
特に両足にけがや骨折の既往がある方では、左右の足で身体を支える力が弱くなっているケースもあります。
その結果、歩行中に足でしっかり踏ん張ることが難しくなり、身体のバランスを崩してふらつきにつながる場合があります。
また、股関節周辺の手術など、大きな手術を受けた方では、術後に脚長差が生じたり、身体の使い方が変化したりする場合があります。
本人は、その身体の変化に合わせて歩き方を調整していることもあります。
しかし、以前とは異なる歩行パターンになることで、歩行が不安定になる場合もあります。
そのため、歩行時のふらつきを確認するときには、
- これまでにどのようなけがや骨折をしたのか
- どのような手術を受けたのか
- 現在、痛みはあるのか
- 左右の足に体重をかけられているか
- 立ったときに身体を安定して支えられるか
- 歩行中にどちらか一方の足をかばっていないか
- 過去のけがや手術後に歩き方が変化していないか
などを確認します。
「今の歩き方」だけを見るのではなく、「これまでの身体の変化が現在の歩行にどのような影響を与えているのか」を考えることが大切です。
⑤ 中枢神経系の病気や障害による影響がないか
高齢者のふらつきを考えるときには、骨折や関節の病気など、足や身体の外傷・整形外科的な問題だけでなく、脳や神経などの中枢神経系の影響も考える必要があります。
私たちが安定して立ったり歩いたりするためには、筋力だけでなく、身体のバランスを調整する機能や、自分の身体が空間の中でどのような位置にあるのかを把握する機能など、さまざまな働きが関係しています。
そのため、中枢神経系に問題があると、身体をうまくコントロールできなくなったり、自分の身体の位置や周囲の環境を把握しにくくなったりすることで、歩行時のふらつきにつながる場合があります。
ここで注意したいのは、中枢神経系の問題が必ずしも片麻痺のように、見た目ではっきり分かるとは限らないということです。
片側の手足が動かしにくいなど、明らかな症状があれば気づきやすいかもしれません。
しかし、実際には、
- 歩くときだけ身体が不安定になる
- 方向転換でふらつきやすい
- 障害物を避けるときにバランスを崩す
- 身体が傾いていても自分で気づきにくい
- 足を出すタイミングが合わない
- 周囲の状況を確認しながら歩くことが難しい
- 以前より歩行がぎこちなくなった
など、一見すると「筋力が落ちたのかな」と思うような変化として現れることもあります。
そのため、ふらつきが見られたときには、「足の筋力が弱くなった」とすぐに判断するのではなく、以前と比べて何が変わったのかを慎重に確認することが大切です。
「見た目に麻痺がないから大丈夫」とは限りません。
歩行の様子だけでなく、立位での姿勢、方向転換、身体の傾き、足の出し方、周囲への反応などを総合的に確認していく必要があります。
また、急にふらつくようになった場合や、歩行状態が急激に変化した場合には、脳や神経の病気などが隠れている可能性もあります。
そのような場合は、リハビリ職だけで判断せず、看護職や医師などと情報を共有し、必要に応じて医療機関での評価につなげることが大切です。
⑥ 歩行能力や転倒リスクに対する理解・認知機能に変化がないか
高齢者のふらつきを考えるとき、身体機能だけでなく、認知機能や理解力も確認する必要があります。
たとえば、
「自分は一人で歩ける」と思っているものの、実際には歩行時に介助が必要な方もいます。
また、転倒の危険性を説明しても、その内容を忘れてしまったり、危険を十分に認識できなかったりする場合もあります。
このような場合、職員が「危ないので立たないでください」と声をかけるだけでは、転倒を防ぐことが難しいことがあります。
私が勤務する施設でも、普段は車いすで生活されている方で、立ち上がりから歩行まで手を支える介助が必要な方がいます。
しかし、本人様は自分の歩行能力や転倒リスクについての理解が十分ではなく、職員の声かけがあっても立ち上がろうとしたり、ふらつきながら歩こうとしたりすることがありました。
この方の場合は、パーキンソン病やリウマチによる身体機能への影響もふらつきに関係していると考えています。
さらに、自分がどの程度歩けるのか、転倒の危険性がどの程度あるのかを十分に理解することが難しいことも、転倒リスクの一つと考えました。
そこで、本人様への声かけだけに頼るのではなく、職員全体で歩行能力やふらつきの状態を共有し、本人様が立ち上がろうとする可能性を考えながら見守りを行うようにしています。
このように、ふらつきや転倒の原因を考えるときには、
「身体的に歩けるか」だけではなく、「自分の歩行能力や危険性を理解できているか」
という視点も大切です。
本人に歩行能力や転倒リスクを理解してもらうための声かけは重要ですが、認知機能の状態によっては、声かけや説明だけで安全を確保することが難しい場合もあります。
その場合には、職員間で情報を共有し、本人の行動を予測した見守りや支援方法を考えることが重要です。
ふらつきがある高齢者を支援するときに大切なこと
高齢者にふらつきがあると、「転倒が心配だから歩かせないほうがいい」と考えることもあるかもしれません。
もちろん、安全を確保することは重要です。
しかし、すべての活動を制限してしまうと、身体活動量が減少し、さらに筋力や体力が低下する可能性もあります。
そのため、
「なぜふらついているのか」
を確認することが大切です。
たとえば、
- 筋力が低下しているのか
- バランス能力が低下しているのか
- ふらついたときに自分で立て直せるのか
- 痛みがあるのか
- 病気の影響があるのか
- 過去のけがや骨折が影響しているのか
- 手術後に歩き方が変化しているのか
- 中枢神経系の影響があるのか
- 認知機能や理解力が影響しているのか
などを考えます。
そして、その原因に合わせて、
- リハビリや運動
- 歩行練習
- 歩行補助具の検討
- 見守り方法の工夫
- 職員間の情報共有
- 必要に応じた医療機関への相談
などを組み合わせていきます。
また、安全な歩行を考えるときには、歩行補助具だけでなく、普段使用している履物について確認することも大切です。
履物の種類やサイズ、履き方によっては、歩行の安定性や転倒リスクに影響する場合があります。高齢者の転倒予防につながる履物選びのポイントについては、こちらの記事で詳しく紹介しています。
重要なのは、「ふらつくから歩かせない」という一つの対応だけで終わらせないことです。
本人の身体機能や認知機能、既往歴、病気、生活環境などを確認し、その人に合った安全な方法を考えることが必要です。
ふらつきの原因を考えるときは「以前との変化」に注目する
高齢者の歩行を観察するとき、私は「今の歩き方」だけでなく、以前と比べて何が変わったのかを見ることが重要だと考えています。
たとえば、
「以前は一人で歩けていたのに、最近ふらつくようになった」
「方向転換するときだけ不安定になった」
「最近、立ち上がるときに介助が必要になった」
「以前より歩幅が狭くなった」
などの変化です。
こうした小さな変化が、転倒リスクが高くなっているサインかもしれません。
また、理学療法士だけでなく、日頃から利用者様と関わっている介護職員や看護職員からの情報も重要です。
リハビリの時間には見られない歩行の変化を、介護職員が気づいていることもあります。
そのため、気になる変化があれば職員間で共有し、必要に応じてリハビリ職や看護職など多職種で原因を考えることが大切です。
まとめ|高齢者のふらつきは「なぜ起きているのか」を考えることが大切
高齢者が歩くときのふらつきには、さまざまな原因が考えられます。
今回紹介した6つのポイントは、
- 筋力や身体を支える力が低下していないか
- バランス能力や、ふらついたときに姿勢を立て直す力があるか
- 歩き方や歩行パターンに変化がないか
- 痛みや病気、過去のけが・骨折、手術による身体への影響がないか
- 中枢神経系の病気や障害による影響がないか
- 歩行能力や転倒リスクに対する理解・認知機能に変化がないか
です。
ふらつきを見つけたとき、「足の筋力が落ちたから」とすぐに判断するのではなく、身体機能、バランス能力、病気、痛み、既往歴、歩き方、中枢神経系、認知機能など、さまざまな視点から原因を考えることが大切です。
特に、歩行時のふらつきだけでなく、歩行前に安定して立っていられるか、ふらついたときに自分で姿勢を立て直せるかを確認することも重要です。
また、ふらつきの原因は、見た目だけでは分からないこともあります。
中枢神経系の問題のように、片麻痺などの明らかな症状がなくても、歩行やバランスに影響している場合があります。
だからこそ、
「いつもと歩き方が違う」
「以前よりふらつくようになった」
という小さな変化に気づき、その原因を慎重に考えることが大切です。
高齢者の転倒予防では、理学療法士だけでなく、介護職員や看護職員など、日頃から関わる職員全体で情報を共有することも重要です。
高齢者の歩行を支援するときには、ふらつきを単純に「歩けない」という問題として捉えるのではなく、
「なぜふらついているのか」
「どのような場面でふらつくのか」
「ふらついたときに自分で立て直せるのか」
「以前と比べて何が変化したのか」
を考え、その人に合った支援方法を検討することが大切です。
ふらつきの原因を一つずつ確認することが、安全な歩行支援や転倒予防につながるのではないでしょうか。
※注意事項
本記事は、理学療法士としての現場経験をもとに、高齢者の歩行時のふらつきを考える際の視点を紹介しています。
ふらつきが急に強くなった場合や、歩行状態が急激に変化した場合は、病気や体調の変化が隠れている可能性もあります。気になる症状がある場合は、自己判断せず、医療機関への相談を検討してください。
【この記事の執筆者】
usagi.inco(理学療法士・福祉住環境コーディネーター2級)
理学療法士として18年以上、高齢者リハビリテーションに従事。現在は特別養護老人ホームで勤務し、介護職員への介助技術指導、転倒予防、褥瘡予防、リスクマネジメント活動などに携わっています。

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