高齢者に杖はいつから必要?理学療法士が考える使用を検討するポイント

リハビリの基礎知識

「最近、歩くときにふらつくようになったけれど、杖を使ったほうがいい?」

「高齢になったら、いつから杖が必要になるの?」

家族の歩行が不安定になってくると、杖の使用を考えることがあります。

しかし、杖を使い始める年齢に明確な基準があるわけではありません。

理学療法士として高齢者のリハビリに携わっていると、年齢だけで杖の必要性を決めるのではなく、その人の歩行状態や痛み、杖を安全に操作できるかを確認することが大切だと感じます。

また、杖で歩けるからといって、必ずしも杖がその人にとって最も使いやすい歩行補助具とは限りません。

今回は、病院や高齢者施設でのリハビリ経験をもとに、高齢者が杖の使用を検討するポイントについて解説します。

高齢者に杖は何歳から必要?

結論からいうと、「○歳になったら杖を使う」という基準はありません。

杖を使うかどうかは、年齢よりも歩行状態を確認して判断します。

例えば、

  • 歩いているときにふらつく
  • 足の痛みで歩きにくい
  • 骨折や手術後で歩行が不安定
  • 長く歩くと身体が疲れやすい
  • 屋外歩行に不安がある
  • 以前より歩くことに不安を感じる

といった変化がある場合には、杖などの歩行補助具を検討することがあります。

ただし、杖を使えば必ず安全に歩けるわけではありません。

大切なのは、その人が杖を適切に操作でき、杖を使うことで歩行が安定するかどうかです。

杖には「ふらつきを支える」以外の役割もある

杖というと、歩行時のふらつきを支えるための道具というイメージがあるかもしれません。

しかし、杖にはもう一つ重要な役割があります。

それは、痛みのある脚にかかる負担を杖に分散することです。

例えば、右脚に痛みがある場合、一般的には左手で杖を持ちます。

患側と反対側に杖を持つことで、杖に体重を分散させながら歩くことができます。

歩行中の杖の使い方によっては、杖が床から受ける力の約3割、つまり1/3程度を分担したという研究報告もあります。

ただし、これは「患側の体重が常に1/3になる」という意味ではありません。

実際にどの程度負担を減らせるかは、杖への荷重、歩き方、身体機能などによって変わります。

そのため、ここでは「杖を使うことで痛みのある脚への負担を軽減できる」と考えると分かりやすいでしょう。

骨折や手術後にも杖を使うことがある

病院でのリハビリでは、足の骨折や手術後など、歩行が不安定になった方に歩行補助具を使用して歩行練習を行うことがあります。

私が病院勤務時代に経験したリハビリでは、身体の状態に合わせて歩行器などから杖歩行へ移行し、杖を使って安定して歩けることを確認したうえで、最終的に杖を使わない独歩へステップアップすることもありました。

一方で、杖歩行がうまくできない場合には、無理に杖へ移行するのではなく、歩行器など別の歩行補助具を使用して練習することもあります。

つまり、

歩行補助具は「杖を使えるようになること」が目的ではありません。

その人が安全に歩けることが最も重要です。

杖が使える人でも「杖は使いにくい」と感じることがある

ここは、私が高齢者のリハビリに携わる中で感じていることです。

杖を使って歩ける方でも、

「杖は使いにくい」

という意見を聞くことがあります。

杖は基本的に片手で操作するため、

  • 杖をつく
  • 杖を移動する
  • 足を出す
  • 杖と足のタイミングを合わせる

といった操作が必要です。

そのため、杖を使うための身体能力があっても、本人にとって使いやすいとは限りません。

特に高齢者施設では、90歳前後の利用者さんも多く、杖よりもシルバーカーや歩行器を好まれる方を多く見てきました。

杖よりシルバーカーや歩行器を好む方もいる

シルバーカーや歩行器の大きな特徴は、両手で身体を支えられることです。

杖は片手で支えますが、歩行器などでは両手を使って身体を支えながら歩くことができます。

高齢になると、背筋を伸ばした姿勢を保ちながら歩くことが難しくなる方もいます。

そのような場合でも、歩行器などを両手で支えることで、自分の身体を支えながら歩ける方がいます。

もちろん、前かがみになればよいということではありません。

歩行器やシルバーカーを前に出しすぎたり、身体を強く預けたりすると、かえってバランスを崩す可能性があります。

そのため、歩行補助具を使用するときには、その人の身体機能や歩き方に合った用具を選ぶことが大切です。

高齢者の歩行は「長い距離を歩けるか」だけではない

高齢者の歩行を考えるとき、何分歩けるか、何メートル歩けるかだけを見る必要はありません。

私が勤務する施設では90歳前後の利用者さんが多く、連続して10分以上歩行する方はそれほど多くありません。

そのため、施設での生活では、

  • 居室から食堂まで歩く
  • トイレまで移動する
  • 廊下を移動する
  • 必要な場所まで安全に歩く

といった、その人の生活に必要な距離を安全に移動できるかが重要になります。

杖を使って長い距離を歩けることだけが、歩行能力の目標ではありません。

その人の生活に必要な移動を、できるだけ安全に行えることが大切です。

杖を使っていても転倒することがある

杖を使っているからといって、転倒の危険がなくなるわけではありません。

私自身、杖を使用している方が転倒したケースを経験しています。

そのとき使用していた杖の先ゴムは新しいもので、摩耗していたわけではありませんでした。

しかし、その日は雨が降っており、床はタイルで濡れていました。

杖を床についた際に杖先が滑り、身体を支えられず転倒してしまいました。

この経験から、杖を使用するときには、杖先ゴムの状態だけでなく、杖をつく場所の環境にも注意する必要があると感じています。

特に、

  • 雨で濡れた床
  • 水がこぼれている場所
  • 滑りやすいタイル
  • ワックスなどで滑りやすくなった床

などでは注意が必要です。

「杖先ゴムが新しいから大丈夫」とは限りません。

杖を使用する場合は、身体の状態だけでなく、杖をつく環境も含めて安全性を考えることが大切です。

杖の使用を検討するときに確認したい5つのポイント

ここまでの内容をまとめると、杖を使い始めるかどうかを考えるときには、次のポイントを確認してみましょう。

① 歩行中にふらついていないか

以前より歩行が不安定になっていないか確認します。

特に方向転換や立ち止まるとき、歩き始めなどにふらつく場合は注意が必要です。

② 足の痛みが歩行に影響していないか

膝や股関節、足首などに痛みがあり、痛みを避けるような歩き方になっている場合があります。

杖によって患側への負担を軽減できる場合があります。

③ 杖を安全に操作できるか

杖を持つだけでは十分ではありません。

杖を適切な位置につき、身体とのタイミングを合わせて歩けるか確認する必要があります。

杖を使うことでかえって歩きにくくなる場合は、別の歩行補助具を検討したほうがよいこともあります。

④ 杖よりも両手で支えたほうが安定しないか

片手で杖を使うより、両手で歩行器などを支えたほうが歩きやすい方もいます。

「杖が使えるか」だけではなく、どの歩行補助具が本人にとって安全で使いやすいかを考えましょう。

⑤ 使用する環境に危険がないか

屋内と屋外では床の状態が異なります。

特に雨の日の屋外や濡れたタイルなどでは、杖先が滑ることがあります。

杖そのものだけでなく、使用する環境も確認しましょう。

杖は「使えるか」ではなく「その人に合っているか」が大切

高齢者の杖について考えるとき、

「何歳から杖を使うのか?」

と年齢を基準に考えてしまいがちです。

しかし、理学療法士として高齢者の歩行を見ていると、重要なのは年齢だけではありません。

その人がどのように歩いているのか、痛みはあるのか、杖を安全に操作できるのか、そして杖を使うことで生活が安全で楽になるのか。

これらを確認することが大切です。

杖が適している方もいれば、歩行器やシルバーカーのほうが安全に歩ける方もいます。

特に高齢者の場合、「杖を使えるようにする」ことだけを目標にするのではなく、本人が無理なく、安全に生活の中で移動できる方法を考えることが重要です。

もし最近、歩行時のふらつきや痛みが気になっているのであれば、自己判断で杖を購入する前に、理学療法士などの専門職に歩行状態を確認してもらうことも選択肢の一つです。

まとめ

高齢者が杖を使い始める年齢に明確な基準はありません。

杖の使用を検討するときには、

  • 歩行時にふらついていないか
  • 痛みが歩行に影響していないか
  • 杖を安全に操作できるか
  • 杖より歩行器やシルバーカーのほうが安定しないか
  • 使用する環境に危険がないか

などを確認することが大切です。

杖は、ふらつきを支えるだけでなく、痛みのある脚への負担を軽減する目的でも使用されます。

一方で、杖を使えることと、杖がその人にとって最適であることは同じではありません。

「杖が必要か」だけではなく、「その人にとってどの歩行補助具が安全で使いやすいか」を考えることが、高齢者の転倒予防につながります。


【この記事の執筆者】

usagi.inco(理学療法士・福祉住環境コーディネーター2級)

理学療法士として18年以上、高齢者リハビリテーションに従事。現在は特別養護老人ホームで勤務し、介護職員への介助技術指導、転倒予防、褥瘡予防、リスクマネジメント活動などに携わっています。

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