はじめに
高齢者のリハビリでは、「活動量を増やすこと」が重要と言われています。
しかし、活動量アップとは単純に歩く距離を増やしたり運動量を増やしたりすることではありません。
理学療法士は、患者さんの身体機能や疾患、認知機能、呼吸・循環状態などを専門的に評価し、その人に適した活動レベルを判断しています。
特に高齢者では、脳卒中による麻痺や高次脳機能障害、認知症、心不全など活動量に影響する要因が多く存在します。
そのため、「今どの段階にいるのか」を見極めながら、寝返りから歩行まで段階的に活動量を高めていくことが重要です。
この記事では、理学療法士の視点から活動量アップの考え方と、寝たきりから歩行までのステップについて解説します。
なぜ活動量アップが重要なのか
高齢者は活動量が低下すると身体機能が急速に低下します。
活動量低下によって起こる主な問題は次のとおりです。
- 筋力低下
- 関節拘縮
- 誤嚥性肺炎
- 褥瘡(床ずれ)
- 食欲低下
- 認知機能低下
- 意欲低下
- 心肺機能低下
これらは「廃用症候群」と呼ばれ、さらに寝たきりを進行させる原因となります。
そのため、可能な範囲で身体を起こし、活動量を維持・向上させることが重要です。
理学療法士は何を評価して活動量を決めているのか
活動量アップを進める際、理学療法士は単純に筋力だけを見ているわけではありません。
患者さんの状態を総合的に評価し、安全に実施できる活動レベルを判断しています。
主な評価項目は以下のとおりです。
身体機能の評価
- 筋力
- 関節可動域
- バランス能力
- 起居動作能力
- 歩行能力
全身状態の評価
- 血圧
- 脈拍
- 酸素飽和度(SpO₂)
- 呼吸状態
- 疲労の程度
疾患・障害特性の評価
高齢者では以下のような疾患や障害が活動量に大きく影響します。
- 脳卒中による麻痺
- 高次脳機能障害
- 認知症
- パーキンソン病
- 心不全
- 骨折後の状態
例えば同じ「歩けない状態」であっても、筋力低下が原因なのか、麻痺が原因なのか、心不全による息切れが原因なのかによってリハビリの進め方は大きく異なります。
理学療法士はこれらを評価した上で、その人に合った活動量アップのステップを設定しています。
活動量アップの基本的な考え方
活動量アップで大切なのは、
「できることを一段階ずつ増やしていくこと」
です。
歩けない方にいきなり歩行練習を行っても効果的とは言えません。
まずは、
- 寝返り
- 起き上がり
- 座位
- 立位
- 歩行
という順番で身体を慣らしていくことが重要です。
ステップ① 寝返りができるようになる
寝たきり状態の方では、自分で身体を動かす機会が減少しています。
まずは寝返りや手足の運動など、ベッド上での活動から開始します。
期待できる効果
- 体幹筋の活性化
- 褥瘡予防
- 血流改善
- 関節拘縮予防
- 身体を動かす意欲向上
寝返りができることは、その後の起き上がり動作にもつながります。
ステップ② 起き上がり・背上げを行う
寝たきりの状態では、急に身体を起こすと血圧低下や気分不良を起こすことがあります。
そのため、まずはベッドの背上げから開始し、徐々に起きている時間を増やします。
期待できる効果
- 覚醒レベル向上
- 呼吸状態改善
- 誤嚥予防
- 食欲向上
活動量アップでは、まず「起きている時間を増やすこと」が大切です。
ステップ③ 座位を獲得する
ベッド端座位や車椅子座位は活動量を大きく向上させる重要な段階です。
座るだけでも体幹や下肢の筋肉が働きます。
座位で確認するポイント
- 血圧変動
- 疲労感
- バランス能力
- 疼痛の有無
最初は短時間から開始し、徐々に座位時間を延長していきます。
ステップ④ 立ち上がり・立位保持を行う
座れるようになったら立ち上がりへ進みます。
立位では下肢筋力やバランス能力が必要になります。
期待できる効果
- 下肢筋力向上
- 骨への荷重刺激
- 循環改善
- バランス能力向上
歩けなくても、立つこと自体が大きなリハビリになります。
ステップ⑤ 歩行練習を開始する
活動量アップの最終段階が歩行です。
患者さんの状態に応じて、
- 平行棒内歩行
- 歩行器歩行
- 杖歩行
などを選択します。
歩行練習のポイント
- 短距離から始める
- 疲労や息切れを確認する
- 転倒予防を徹底する
- 成功体験を積み重ねる
歩行距離を伸ばすことだけでなく、安全に継続することが大切です。
活動量アップで大切な3つのポイント
1.小さな変化を評価する
- 5分座れた
- 自分で寝返りできた
- 立位保持ができた
- 10m歩けた
小さな成功の積み重ねが機能改善につながります。
2.無理をしない
頑張りすぎは疲労や転倒リスクを高めます。
その日の体調や全身状態に合わせた活動量設定が重要です。
3.多職種で取り組む
活動量アップはリハビリだけでは実現できません。
- 医師
- 看護師
- 介護職
- 管理栄養士
- 家族
が目標を共有し、日常生活の中で活動機会を増やしていくことが重要です。
まとめ
活動量アップとは単に歩くことではありません。
理学療法士は患者さんの身体機能や疾患、認知機能、呼吸・循環状態を評価しながら、
寝返り → 起き上がり → 座位 → 立位 → 歩行
という段階的なステップで活動量を高めていきます。
高齢者のリハビリでは、今できることを一つずつ増やしていくことが大切です。
小さな成功の積み重ねが、寝たきり予防や生活機能の向上につながります。
【この記事の執筆者】
usagi.inco(理学療法士・福祉住環境コーディネーター2級)
理学療法士として18年以上、高齢者リハビリテーションに従事。現在は特別養護老人ホームで勤務し、介護職員への介助技術指導、転倒予防、褥瘡予防、リスクマネジメント活動などに携わっています。


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