認知症の方と暮らしていると、
「家から外に出てしまったらどうしよう」
「気づかないうちに遠くまで行ってしまわないだろうか」
「家族がずっと見守ることは難しいけれど、何かできることはないだろうか」
と心配になることがあります。
認知症の方が外に出てしまう背景には、単純に「歩きたい」という理由だけではなく、家に帰りたい、何かを探している、不安を感じている、以前の習慣で出かけようとしているなど、さまざまな理由があります。
認知症の方が外に出てしまう理由については、こちらの記事で詳しく解説しています。
また、外出するときの移動手段も人によって違います。
歩いて外に出る方もいれば、杖や歩行器を使う方、自転車や車など、これまで使ってきた移動手段を利用する方もいます。
私は理学療法士として高齢者施設で勤務する中で、認知症の方が施設外へ出てしまったケースに立ち会った経験があります。
その経験から感じるのは、認知症の方の外出・行方不明対策では、
「外に出ないようにする」だけではなく、「外に出た場合にどうするか」まで考えておくことが大切
ということです。

この記事では、施設での経験や家庭で実際にあった事例をもとに、認知症の方の外出・行方不明について家族が確認しておきたいポイントを解説します。
1.認知症の方が外に出てしまうとき、まず本人の状態を確認する
認知症の方が外に出ようとするとき、まず考えたいのは、
「なぜ外に出ようとしているのか」
ということです。
以前の記事では、認知症の方が歩き回る理由について詳しく解説しています。
外に出ようとする行動についても、本人なりの理由がある場合があります。
認知症の程度だけで判断しない
認知症の程度だけを見て、
「このくらいの認知症なら一人で歩ける」
「認知症が進んでいるから外出できない」
と判断するのは難しいものです。
実際には、
- 認知機能
- 判断力
- 周囲への注意
- 不安や興奮の程度
- 歩行能力
- 車などの移動手段
- これまでの生活習慣
などを合わせて考える必要があります。
身体機能と移動能力も確認する
認知症の方でも、身体機能が比較的保たれている場合があります。
歩行できる方であれば、自分で玄関から外へ出ることができます。
また、これまで車を運転していた方であれば、車を使って外出する可能性もあります。
そのため、
「歩けるかどうか」だけではなく、「どのような方法で移動できるのか」
を確認しておくことが大切です。
「歩けること」と「安全に一人で外出できること」は違う
ここは家族にも知っておいてほしいポイントです。
歩行が安定しているからといって、一人で安全に外出できるとは限りません。
歩行能力が保たれていても、
- 道に迷う
- 目的地が分からなくなる
- 車や自転車など周囲の危険に気づきにくい
- 自宅へ帰れなくなる
- 本人が困ったときに家族へ連絡できない
といったことが考えられます。
そのため、身体的に移動できることと、安全に一人で外出できることは別に考える必要があります。
2.施設では本人の状態に合わせて見守り方を変えています
私が勤務する施設にも、認知症の程度がさまざまな方がいます。
認知症が軽度の方から重度の方までおり、それぞれの状態に合わせて対応を考えています。
私が勤務する施設で行っている対応
例えば、外出する可能性がある方については、
- 本人の認知症状
- 歩行能力
- 外出しようとする理由
- 不安や興奮の程度
- 家族との連絡方法
- 携帯電話などを持っているか
などを確認します。
状態によっては職員が付き添います。
また、比較的状態が安定している方については、携帯電話やスマートフォンを持っているか確認することもあります。
外出や外泊をする場合には、施設内で外出届などを利用し、誰がいつ外出しているのかを把握できるようにしています。
施設でもエスケープのリスクはゼロではない
施設では職員による見守りがあります。
しかし、それでも認知症の方が施設外へ出てしまう、いわゆるエスケープのリスクを完全になくすことは難しいと感じています。
だからこそ、
「施設だから大丈夫」ではなく、本人の状態に合わせて見守り方を考えることが必要
だと私は考えています。
3.興奮して施設外へ出てしまったケースから考える見守り

ここでは、私が実際に施設で立ち会ったケースを紹介します。
実際にあったケース
ある認知症の方が不穏状態となり、施設の外へ出てしまったことがありました。
本人に声をかけても、その時は話を聞いてもらえず、そのまま歩き続けていました。
そこで職員は、無理に本人の行動を止めようとするのではなく、安全な距離を保ちながら付き添うことにしました。
本人は近くのお店に入ったり、通りかかった人に話しかけたりしながら、自分の訴えを伝えようとしていました。
そのたびに職員が対応し、相手の方には本人をさらに興奮させないようにお願いしながら、本人の安全を確認していました。
しばらくすると、30分程度経過した頃には、疲れたためか本人の状態が徐々に落ち着き、最終的には職員の声かけに応じるようになりました。
本人の行動を無理に止めようとしない
このケースは、すべての認知症の方に同じ対応ができるという話ではありません。
私がこのケースを経験して感じたのは、興奮している状態では、無理に行動を止めようとするよりも、
まず本人と周囲の安全を確保しながら付き添い、状態を見守ることが重要な場合がある
ということです。
本人が強く興奮しているときに、何度も説得したり、強く制止したりすると、かえって興奮が強くなることもあります。
そのため、その時の本人の状態を見ながら対応することが大切です。
時間が経つことで落ち着いてきた
今回のケースでは、しばらく時間が経つことで本人が徐々に落ち着きました。
ただし、
「歩き続ければ疲れて落ち着く」
という意味ではありません。
あくまでも今回私が立ち会ったケースでは、そのような経過になったということです。
認知症の方の状態や原因によって対応は変わります。
4.家庭では「人による見守り」だけに頼らないことも大切
施設では職員がいるため、複数の職員で情報を共有しながら対応できます。
一方、家庭では家族が一人で介護や見守りを担っている場合もあります。
そのため、
「家族がずっと見ていればいい」
という方法だけでは、現実的に難しいことがあります。
家族が24時間見守ることは難しい
家族にも仕事や睡眠、買い物、家事などがあります。
認知症の方が外に出ないように、家族が常にそばにいることは簡単ではありません。
そこで、
- 家族
- 親族
- 介護サービス
- 地域の支援
- 見守り機器
などを組み合わせて考えることが大切になります。
「誰が・いつ・どのように見守るか」を考える
見守りについて考えるときは、
「誰が見守るのか」
だけでなく、
「家族が見られない時間をどうするのか」
まで考えておくとよいでしょう。
例えば、家族が仕事に出ている時間帯と夜間では、必要な対策が変わる場合があります。
本人が外出しやすい時間帯が分かっているのであれば、その時間帯を重点的に確認する方法もあります。
5.自宅から外に出るまでの環境を確認する
認知症の方の外出を考えるときは、本人だけでなく、自宅の環境も確認してみましょう。
玄関・勝手口を確認する
まずは本人が普段どこから外へ出るのかを確認します。
玄関だけとは限りません。
- 勝手口
- ベランダ
- 車庫
- 庭へ出る扉
など、本人が普段使っている場所を確認しておきましょう。
外出する前に気づける仕組みを考える
本人が外へ出たことを家族が早く知ることができれば、その後の対応につながる場合があります。
例えば、
- 玄関の開閉を知らせる仕組み
- 人が通ったことを知らせるセンサー
- 見守りカメラ
などがあります。
ただし、機器を設置すればすべて解決するわけではありません。
機器が作動した後に、
「誰が確認するのか」
まで決めておくことが大切です。
本人の行動を妨げることだけを目的にしない
認知症の方の外出対策では、「外に出さない」ことだけを目的にすると、本人の生活を制限することにつながる場合があります。
本人がなぜ外に出ようとしているのかを考えながら、
安全を確保しつつ、本人の生活もできるだけ尊重する
という視点が大切です。
自宅の環境を確認する方法については、こちらの記事も参考にしてください。
6.歩いて外に出るとは限らない|家庭で実際にあったケース
ここで、私が実際に立ち会った家庭でのケースを紹介します。
車で外出した認知症の男性のケース
認知症のある男性が、奥さんを車で送迎したケースです。
奥さんが外出先から夕方に帰宅したところ、駐車場に車がありませんでした。
さらに、本人は携帯電話を持っていませんでした。
本人がどこにいるのか分からなかったため、警察へ行方不明届を提出し、連絡を待つことになりました。
翌日、別の県で物損事故を起こした方について警察から連絡があり、行方不明届に記載された特徴と似ているということで確認することになりました。
家族が確認に向かい、そこで本人を発見することができました。
認知症の方の移動手段にも目を向ける
このケースから私が感じたのは、
認知症の方の外出・行方不明は、歩いて外に出る場合だけではない
ということです。
歩行能力が保たれている方の場合、徒歩で外出することもあります。
しかし、これまで車を使って生活してきた方であれば、車を使って外出することもあります。
車を利用すると、徒歩の場合よりも広い範囲へ移動する可能性があります。
そのため、家庭で認知症の方の外出について考えるときには、
- 徒歩
- 自転車
- 車
- 公共交通機関
など、本人がどのような移動手段を使う可能性があるのかも確認しておく必要があります。
このケースでは、携帯電話を持っていなかったことも、本人の所在を確認するうえで難しい要因になりました。
もちろん、すべての家庭で同じようなことが起こるわけではありません。
しかし、本人が普段どのような生活をしていたのか、どのような移動手段を使っていたのかを家族が把握しておくことは、外出・行方不明への備えを考えるうえで重要だと思います。
7.外出してしまった後に備える
認知症の方が外に出てしまった場合に備えて、事前に家族で情報を共有しておくことも大切です。
本人の情報を家族で共有しておく
例えば、
- 氏名
- 年齢
- 身長
- 体格
- 髪型
- よく着る服
- 靴
- 眼鏡の有無
- よく行く場所
- 普段の移動手段
- 以前住んでいた場所
- よく利用する交通手段
などを整理しておきます。
本人の最近の写真を家族がすぐ確認できるようにしておくことも、一つの方法です。
携帯電話やスマートフォンを持っているか確認する
本人が携帯電話やスマートフォンを持っている場合には、
「外出するときに持っているか」
「家族へ連絡できるか」
なども確認しておきましょう。
ただし、認知症の症状によっては、携帯電話を持っていても操作できなかったり、持って出ること自体を忘れたりする場合があります。
そのため、
「携帯電話を持たせれば安心」ではありません。
外出後の現在地を確認したい場合などには、GPSなどの見守り機器を活用する方法もあります。ただし、見守り機器にはGPSだけでなく、ドアセンサーや見守りカメラなどもあります。
それぞれ確認できることが違うため、本人の状態や家庭での見守り方に合わせて選ぶことが大切です。
認知症の方の見守り機器の選び方|GPS・センサー・カメラの違いを理学療法士が解説
地域の支援について確認する
地域によっては、認知症の方が行方不明になった場合に利用できる見守り・捜索支援などが用意されている場合があります。
家族だけで対応するのではなく、普段から地域包括支援センターや担当のケアマネジャーなどに相談し、地域で利用できる支援を確認しておくことも大切です。
8.見守り機器も選択肢になる
家族が常に本人のそばにいることが難しい場合、見守り機器を利用する方法もあります。
ここで大切なのは、
「どの機器を買うか」ではなく、「何を知りたいのか」から考えること
です。
例えば、
| 知りたいこと | 考えられる方法 |
|---|---|
| 玄関から出たことを知りたい | 開閉センサー・チャイムなど |
| 家の中で動いたことを知りたい | 人感センサーなど |
| 家の中の様子を確認したい | 見守りカメラなど |
| 外出後の場所を確認したい | GPS・位置情報端末など |
| 発見した人に家族へ連絡してほしい | 見守りシールなど |
それぞれ役割が違います。
GPSは「外出した後」に役立つ選択肢
特に、本人が一人で外出してしまう可能性がある場合には、GPSなどの位置情報を確認できる機器が選択肢になります。
ただし、GPSを検討するときには、
- 本人が持ってくれるか
- 毎日充電できるか
- 家族が位置情報を確認できるか
- 通信費などの費用が必要か
- 防水性があるか
- 本人が嫌がらない大きさ・形か
などを確認する必要があります。
また、自治体によっては見守り機器などに関する支援制度が用意されている場合もあるため、地域の制度を確認してみるのもよいでしょう。
見守り機器を導入すれば安心、とは限らない
見守り機器は便利な道具ですが、機器だけですべての問題を解決できるわけではありません。
例えば、施設で私が経験したように、本人が興奮して外へ出てしまった場合には、その場で本人の状態を確認しながら対応する必要があります。
また、機器を持っていても、
- 本人が持って出なかった
- 電池が切れていた
- 通信できなかった
- 家族が通知に気づかなかった
などの問題が起こる可能性があります。
そのため、
機器は人による見守りを補助するもの
と考えることが大切です。
9.認知症の方の見守りは「人・環境・機器」を組み合わせる

ここまで紹介した内容をまとめると、認知症の方の外出・行方不明対策は、一つの方法だけで考えるのではなく、
人・環境・機器
を組み合わせて考えることが大切です。
人による見守り
家族や介護サービスなどによって、本人の状態を直接確認します。
特に本人が不安や興奮状態にある場合には、機器だけでは対応できません。
本人の状態を見ながら、必要な支援につなげることが大切です。
環境・情報共有
玄関などの環境を確認し、本人が外出したことに早く気づけるようにする方法があります。
また、家族や介護サービスなどで本人の状態や外出リスクについて情報を共有しておくことも重要です。
機器による見守り
センサー、見守りカメラ、GPSなど、目的に合わせて機器を選びます。
大切なのは、
「何のために使うのか」
を先に決めることです。
その人に合った組み合わせを考える
認知症の方の外出リスクは、一人ひとり違います。
例えば、
- 認知症の症状
- 歩行能力
- 車や自転車などの移動手段
- 外出する理由
- 不安や興奮の有無
- 家族が見守れる時間
- 本人が機器を持ってくれるか
などによって、必要な対策は変わります。
「認知症だからGPS」
「外出するからセンサー」
と一律に考えるのではなく、本人の生活と家族の状況に合った方法を考えることが大切です。
10.まとめ|外出を防ぐだけでなく、外出した場合にも備える
認知症の方の外出・行方不明について考えるとき、
「外に出ないようにする」
ということだけに目が向きやすくなります。
しかし、私が施設や家庭での事例を経験して感じるのは、
「もし外に出てしまったらどうするか」まで事前に考えておくことが大切
ということです。
今回紹介したように、認知症の方の外出は歩行だけとは限りません。
徒歩だけでなく、車など本人がこれまで使ってきた移動手段によって、想定以上の距離を移動する可能性もあります。
家族が確認しておきたいポイントは、
- 本人はなぜ外に出ようとするのか
- 一人で安全に外出できる状態なのか
- どのような移動手段を使う可能性があるのか
- 家族が見守れない時間をどうするのか
- 外出したことにどうやって気づくのか
- 外出後に本人の所在を確認する方法があるか
- 地域で利用できる支援があるか
- 見守り機器が本人に合っているか
といった点です。
認知症の方の見守りでは、人だけ、環境だけ、機器だけに頼るのではなく、その人の状態に合わせて組み合わせることが大切だと私は考えています。
「外に出ないようにする」だけではなく、
「外に出た場合にも、できるだけ早く気づき、本人の安全につなげられるように準備しておく」
という視点を持っておきましょう。
【この記事の執筆者】
usagi.inco(理学療法士・福祉住環境コーディネーター2級)
理学療法士として18年以上、高齢者リハビリテーションに従事。現在は特別養護老人ホームで勤務し、介護職員への介助技術指導、転倒予防、褥瘡予防、リスクマネジメント活動などに携わっています。
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今後、見守り機器を検討したい方に向けて、GPS・センサー・見守りカメラなどの違いや選び方についても解説していきます。


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